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「雪風と風の旅人」
始まりの終わり

第9話 軍師、座して機を待つの事

 ←第8話 土くれ、学舎にて強襲す →第10話 伝説と零、己の一端を知るの事
「では、改めて情報を整理するぞ」

 学生(+α)によるフーケ討伐隊が結成されてから間もなくして。宝物庫内に集められていた教員たちは、それぞれの職務へと戻り……関係者のみがその場に残って作戦会議を開いていた。

 会議参加者はタバサ、ルイズ、才人、キュルケの4人と、議長役の太公望。彼らに協力を申し出たミス・ロングビルの計6名である。

「ねえ。なんでミスタ・タイコーボーが仕切ってる訳?」

 形の良い眉をへの字に曲げて不満を口にするルイズに、タバサが応えた。

「わたしが頼んだ。最適の人選」

「そ、そうかもしれないけど……」

 使い魔召喚の儀から既に2週間。これまでの経緯もあり、ルイズは太公望――タバサの使い魔の作戦立案能力に疑いを持っているわけではない。だが、これは魔法学院の、ひいてはトリステインの問題なのだ。つまり、トリステインの貴族が責任をもって取り仕切るべき。そう主張したのだが。

「俺はタイコーボーがいいと思う」

「あたしも」

「わたくしは協力者ですので」

 うぐぐ……と、言葉に詰まるルイズ。他の全員が納得しているのに、これでは自分だけが聞き分けのない子供みたいじゃないか。そう考え、なんとか心に折り合いをつけた。

「わ、わかったわ。べ、べつにあんたが気に入らないって訳じゃないのよ」

 渋々了解したルイズに、うむ、と頷く太公望。

「任されたからには、きっちりと仕切ってやるわ。さて……ミス・ロングビル、でよかったかのう? もういちど、おぬしが得てきた情報について確認させてもらう」

「はい、何でもお聞きください」

「情報提供者は、近隣に住む農民。黒いローブをまとった賊とおぼしき男が、近くの森の奥に建っている廃屋に入っていくところを見た。場所は、ここから馬で4時間ほどの深い森の中。これで間違いないかのう?」

「ええ、間違いありません」

 ロングビルの返答を聞き、なるほど……と、目を閉じてしばし考え込む太公望。

「で、その場所は、学院側から見てどの方向にあるのだ? また、廃屋近辺の地形――たとえば、足元が岩場であるとか、廃屋は全部で何軒あるのか、どれほどの規模なのか、その廃屋が何で造られた建物であるのか、周囲の場は開けておるのか、そういった類の情報について、何か聞いてはおらぬかのう?」

 この太公望の発言に、慌てたように答えるロングビル。

「えっ!? あ、そ、そ、それでしたら学院から西の方角にあるようです。廃屋は木こりが使っていたという小屋で、一軒。それなりに深い森の中の、少し開けた場所に建てられていて……地面は、ええと、ごくありきたりな土だったはずです。申し訳ありません、さすがにこれ以上のことはわかりませんでした」

 彼女の答えに、ほうっと声を上げた太公望。その顔には笑みが溢れていた。

「謙遜する必要はない! こんな短時間で、そこまで聞き出してくるとは……随分と仕事のできる御仁だのう。あの狸ジジイの秘書なんぞにしておくには、正直惜しい人材だ」

 そんな太公望の言葉に、うんうんと頷いて賛同する一同。全員に褒められて悪い気はしないのであろう、ロングビルは恥ずかしそうに微笑んでいる。

「おぬしのおかげで、いくつかのことがわかった。まず、敵は複数犯。また、その廃屋にいる可能性はほぼゼロ。さらに、盗まれた品は既に他の場所へ運ばれているであろう」

「えーっ!!!」

 驚く一同。ミス・ロングビルの笑顔は引きつっていた。

「あ、あの、どうしてそう思われたのか、教えていただけますか?」

「人目を忍ぶ盗賊が、わざわざ黒いローブを着て移動していた、これがひとつ。本気で逃げるつもりなら、そんなあからさまに怪しい服なぞ脱いでおる。見つけてもらいたいから、そんな真似をしておるのだと判断した」

「その男が囮」

 タバサがポツリと補足する。

「そういうことだよ。おまけに、深い森の中の一軒家、だと? そんな不便な立地、しかも近隣の住民に出入りする姿を見られるような場所を、隠れ家なんぞにするわけがないわ! これがふたつ目の理由といったところだ。目立つ囮を立てて、本命は今頃ゆうゆうと別の場所へ向かっておるのだ。さすがは諸国に名を轟かす怪盗といったところかのう」

 一挙に畳み掛けた太公望の説明に、言葉を失う討伐隊メンバー。せっかくフーケの足取りが掴めたと思ったら、それが目くらましだと断言されてしまったのだ。その反応は当然だろう。

「あっ、あの、すみません、実はその付近でゴーレムを見たという情報も」

 突然、思い出したように情報を追加したロングビルであったが、太公望はあっさりとその言を斬り捨てる。

「なるほど、ますます囮確定だ。と、いうわけでその廃屋には向かうだけ無駄であろう。残念な結果になってしまったが、この上はすみやかに王室なり国の役人なりに被害を報告すべきだとわしは考える」

「む、無駄とは思えません! 囮だとしても何か手がかりが残っているかも」

「そうよ! そんなの、行ってみなきゃわからないじゃない!!」

 会議参加者を見回しながら意見を述べた太公望に強く反論したのは、ミス・ロングビルと、ルイズのふたりだった。

「わしは、無駄足になるだけだと思うのだが……」

 腕を身体の前で組み、渋い顔をする太公望に声をかけたのはタバサ。

「なら、あなたは行かなくてもかまわない」

「た、タバサ!?」

「どちらにせよ、いまだに体調が万全ではないあなたを連れて行く気はなかった。学院長へはわたしから謝罪する」

「うぬぬぬ……そこまで言うなら止めはせぬが……」

 ううむと唸りながら答える太公望。と、何かを思い出したかのように彼はぽん、と手を打った。

「そういえば……破壊の杖を、実際に見たことがある者はおるか?」

 タバサ、ルイズ、キュルケ、ロングビルの4人が手を挙げる。

「ふむ……この4名が知っておれば大丈夫だろうが、才人にも覚えておいてもらおう。まさか例の廃屋に隠されていたりはしないと思うが、念のためだ。誰か、簡単なものでかまわぬから絵図を描いてはもらえぬかのう?」

 その言葉に応えたロングビルによって描かれたそれは、どう見ても杖だとは思えなかった。長い円筒形のそれについた複数のパーツ。才人は、これと非常によく似たものに覚えがあった。しかし、まさか『アレ』がこの魔法世界にあるとは思えない。

「ほう、上手いものだのう……で、これの大きさは?」

「確か長さは7~80サント、太さは7~8サントくらいだったと思います」

「なるほど。特徴的な見た目であるし、これなら間違えることもないであろう。しかし……これは、本当に『杖』なのかのう?」

 首をひねる太公望に、

「杖……なのではないでしょうか? わたくしも詳しくはわかりませんが」

 うん、きっと気のせいだ。そう結論付けた才人は、さらに続く説明を、ぼんやりと聞いていた。


 ――それから10分後。

「わたしたちは、学院長に報告してくる。あなたたちは門で待っていてほしい」

「では、わたくしは馬車を用意して参ります」

 学院長室へ向かうタバサと太公望、厩舎へと急ぐロングビルを見送ったルイズ・才人・キュルケの3人組は、揃って学院の門へと歩を進めていた。

「あ~あ、こんなことになるんなら、昨日あんな悪ノリしなきゃよかったわ」

「だよなあ。タイコーボーが来られないって、戦力的にも痛いよな」

 結局、件の廃屋へ向かうメンバーに太公望は同行しないことになった。当初は不満を持っていた一部のメンバーも、会議終了後、その場にへたり込むように膝をついてしまった彼の姿を見てしまっては、文句など言えようはずがなかった。

「なに言ってんのよ! そもそも、あいつに頼っちゃいけないのよ。これはわたしたちの問題なんだから!」

「話を逸らすんじゃないわよ。あなただって楽しんでいたくせに」

「うぐ……あんたこそ、文句言うなら来なきゃよかったじゃないのよ!」

 その後、校門へ到着してもなお続く彼女たちの口論は、才人が仲裁に入っても終わらず、タバサとミス・ロングビルが合流するまで繰り広げられたのであった。


○●○●○●○●

「あの小屋ね」

 鬱蒼と茂る森の中に、ぽつんと開けた空き地。その中央に、一軒の廃屋が建っていた。ロングビルの情報通りである。5人は、小屋の中から見えない位置に身を潜めたまま、タバサの指揮に従って互いの役割を確認する。

 現地に着いたら何をするかについて、彼らは馬車での道中に相談済みだった。もしもの時のために、まずは偵察兼囮を放つ。そして、フーケがいた場合は外へおびき出し、姿を見せたところへ魔法で一斉攻撃をかける。

 ちなみに、名誉ある斥候として指名されたのは才人だった。彼は当然のごとく不満を表明したが、タバサから全員の中で最も素早く、接近戦になった場合の剣の腕を買っているからだと説明されると、表情を引き締めて頷いた。だが、その口端はほんの少しだけ上がっていた。

 中に誰もいなかった場合は、実戦経験を持つタバサと、フーケと同じ<土>のメイジであるロングビルが外で周囲を警戒。残りは屋内に手がかりが残されていないかどうか調査を行う。何か発見したら、すぐさま知らせる――以上が、タバサが中心となって提案し、決定した作戦内容である。

「あの……わたくしは、周囲の様子を偵察してこようと思うんですが」

「却下。この状況で、戦力を分散させるのは全員の危険に繋がる」

 ミス・ロングビルの提案に、即座に反論するタバサ。

「で、でも、もしフーケが遠くからあのゴーレムを出してきたら」

「これはその為の配置。あれだけの質量を生成するには時間がかかる。サイトのスピードなら単独でゴーレムの攻撃範囲から離脱可能。他のメンバーも、指揮官の側にいれば、慌てず即座に対応できる」

「いつまでもゴチャゴチャ言ってても始まらないぜ。んじゃ、行ってくる」

 才人は鞘からデルフリンガーを抜いた。左手のルーンが光り出す。

「おおっ、ついに実戦か!」

 才人は、歓喜の声を上げたデルフを黙らせると、すっと一足飛びに小屋の側へ近づき、おそるおそる窓の中をのぞき込んだ。ひと部屋しかないその中には、埃のかぶったテーブルと椅子が見えたが、人の気配はないし、隠れられるような場所も見あたらない。

 しかし、相手は国内でも名の通った怪盗である。特殊な方法で姿を消しているのかも。そう考えた才人は、頭の上で腕を交差させた。これまた馬車の中で決めていた「誰もいない」のサインである。

 手はず通り全員が小屋へ近づいてゆく。タバサが杖を振ると、小屋の扉が音もなく開いた。どうやら罠はなさそうだ。

「では、中の調査を。ミス・ロングビルとわたしはここで周囲を警戒」

 頷いたルイズとキュルケ、そして才人の3人が小屋の中へ姿を消す。ロングビルは、そんな彼らの姿を落ち着かない様子で見守っていた。

「……何もないわね」

「やっぱり無駄足だったじゃないのよ。んもう、服が埃っぽくなっちゃったわ」

 勇んで中へ突入し、部屋の隅々まで調査した結果わかったのは――手がかりと呼べるようなものは、何ひとつとして残されてはいないということだけだった。

「タイコーボーの言うとおり、囮だったんだな。ま、それがわかっただけでも良かったんじゃないか? さっさと外に出て、待ってるふたりに教えてやろうぜ」

 中には何もなかった。それを聞いたミス・ロングビルの反応は劇的であった。さあっと顔から血の気が引いたかと思うと、慌てて室内へ飛び込んでいく。

 小屋の中を見渡した彼女は、ばたばたと部屋を駆け回り、何かを探している。そんな姿を見た討伐隊のメンバーは唖然とした。

「あ、あの、ミス? フーケに騙されたのが悔しいのは理解できるんですけど……ご覧の通り、ここには何も残されていませんわよ」

「キュルケの言うとおり。速やかに撤収して学院長に報告するべき」

 ――その後なんとか錯乱気味のロングビルを落ち着かせた彼らは、学院への帰路についた。馬車の中で、下を向きひたすら何事かを呟いている彼女に、ルイズ達はせっかくの調査が徒労に終わったのが悔しいのね……と、心から同情の視線を送っていた。


○●○●○●○●

「ううむ、やはり空振りであったか。残念じゃ」

 事の次第を報告するため、討伐隊のメンバーが学院室へ赴くと、そこにいたのはオスマン氏と太公望のふたりであった。気難しげに髭をなでつける学院長とは対照的に、太公望は椅子にゆったりと腰を下ろし、ゆうゆうと茶を飲んでいる。

「まことにもって無念ではあるが、事ここに至った以上、本日執り行われる予定だったフリッグの舞踏会は中止。その上で王室に被害の報告をするしかあるまい」

 深いため息と共に声を絞り出したオスマンは、ちらりとミス・ロングビルへと視線を向けると、気遣わしげに声をかけた。

「ミス・ロングビル。朝早くからの捜索、本当にご苦労じゃった。あとはわしが引き受ける。君は、部屋へ戻って休むがいい」

 事実相当参っていたのだろう、ロングビルは返事もそこそこに部屋を後にする。彼女の退出と、遠ざかっていく足音を確認すると、オールド・オスマンは重々しく口を開く。

「さて。戻ってきたばかりで疲れているところを悪いが、諸君らにはもう一働きしてもらいたい。実のところ……ここからが本番なのじゃ」

 驚きをあらわにした面々へそう告げた彼の瞳には、愉快げな光が宿っていた――。


 ――部屋に戻ったミス・ロングビルは、未だ混乱の極みにあった。

「なんで!? どうして……わからないわ。あそこに『あれ』が置かれていたのは、間違いないはずなのに」

 疲れて思考が鈍っているんだ。そう判断した彼女は、上着を脱ぎ、ベッドへと身を投げ出した。目を閉じて、再びあの時の状況を思い出す。あれだけの大きさの『物』だ、小屋の内部にはもちろん、先に入っていった彼らが持って隠せるような場所も道具もなかったはず。内部……先に……意識がブラックアウトしそうになるのを必死にこらえながら思考を巡らせる。

 ――確認しに行かなければならない。

 彼女はベッドから起き上がると、重い身体を引きずるようにして部屋を後にした。

「どこ行くんですか? ロングビルさん」

 厩舎へ向かう近道――人通りのない裏庭を突っ切るように早足で歩いていたミス・ロングビルは、ふいに前へ出て来て道を遮った少年に、声をかけられた。才人であった。

「あなたは、さっきご一緒したミス・ヴァリエールの……」

「はい、使い魔やってる平賀才人です。顔色悪いですよ、部屋に戻って休んでたほうがいいんじゃないっすか?」

「大丈夫です。わたくしには、確認しなければいけないことが……」

「それって、ひょっとするとアレのことっすかね?」

 片手の親指でくいっと後方を指し示す才人。そこには……見覚えのあるモノ――『破壊の杖』が納められていた頑丈なケースを抱えた、彼の主人・ルイズの姿があった。

「な、な、なんで、それが、こ、こ、ここに」

「ああ。なんでも、ゴーレムが崩した瓦礫の下に埋まってたらしいっすよ」

「へっ?」

 才人の答えに、気の抜けたような声を出したロングビル。

「さっき庭師のひとが見つけて、俺のところへ持ってきてくれたんです。で、これからご主人さまと一緒に学院長のところへ届けに行こうかと」

「そんなバカなっ! 私は確かに持ち出して……」

 ロングビルは、そこまで口に出してから、ようやく自分がとんでもない失態を犯したことに気がついた。

「あ、あ、あなたが、ふ、ふ、フーケ……」

 ケースをぎゅっと抱き締めたルイズの身体は、小刻みに震えている。このわたしとしたことが、疲れでとんだドジ踏んじまった! ミス・ロングビル、もとい『土くれ』のフーケは、なんとかこの場を逃れる方法を模索し始める。相手は平民と、ケースで両手が塞がれているメイジ。正体は割れてしまったが、まだなんとかなる――そう判断したフーケは、素早く懐から杖を抜いた。しかし、ルーンが紡がれようとしたその瞬間。彼女の口に、ぴたっと粘土が収まった。

 そんなフーケの姿を見届けたルイズは、足元へそっとケースを置くと、杖を取り出し天にかざす。すると。

「見ました」

「聞きましたぞ」

「これは確定だの」

「まさか彼女が……」

 複数の声と共に、突如メイジたちの群れが裏庭に出現する。オスマン氏を筆頭とした、学院の教師たちであった。タバサにキュルケ、太公望もいる。どうやら、この『合図』があるまで姿を隠していたらしい。その全員が、フーケに杖を向けていた。

「やりましたわ! 生徒を相手に磨き続けた技が、ここへ来て生きるなんて」

 見事フーケを封じた『赤土』シュヴルーズが、歓喜のあまり涙を浮かべている。

「華麗なダンスを披露してくれたの、ミス・ロングビル。いや『土くれのフーケ』よ。どうじゃ、まだ踊り足りないかね?」

 オスマン氏の痛烈な皮肉に、その場へがっくりと崩れ落ちたフーケ。その姿を見た教師たちの間から、大歓声が上がった。


○●○●○●○●

「実はここからが本番なのじゃ」

 そう言って笑ったオスマンが、椅子の影から『破壊の杖』が納められたケースを取り出したとき、討伐隊のメンバーは驚きのあまり声を上げることもできなかった。

 ――何故これがここにあるのか。

 話は、タバサと太公望が学院長室へ向かった時まで遡る。

「よく話を合わせてくれたの。おかげで怪しまれずに別行動ができる」

 討伐隊が結成された直後。タバサは太公望からふたつの依頼を受けていた。それは、この場で作戦会議を開き、太公望をその司会役に指名することと、太公望が腕を組んだら、それを合図に彼をチームから外すよう提言すること。

 昨夜のうちにタバサから聞いていた内容と、現在までに掴んだ情報を密かに検討していた太公望は、内部の者の犯行、あるいは手引きをした者がいると判断していた。そこへ飛び込んできたミス・ロングビルの『調査報告』。

 その発言に疑念を覚えた太公望は、討伐隊への協力を持ちかけてきた彼女に疑いを持たれぬよう――議長による情報整理という形で証言集めを開始する。そして、ほとんど時間がなかったにも関わらず(馬で4時間かかる場所に、朝出立して昼前に戻ってきている時点で既におかしいのだ)、まるで自分で見てきたかのように現場のことを語るロングビルを、フーケ本人もしくは仲間であると断定した。

 しかし。ただの囮やかく乱にしてはその場所に拘りすぎる。もしや、本当にその廃屋に『破壊の杖』が隠されているのか? だとすると、何故わざわざ学院の者をおびき寄せるような真似をするのだろうと、太公望は首を捻った。

「杖……なのではないでしょうか? わたくしも詳しくはわかりませんが」

 この言葉、声色には嘘が感じられない。ここへ至って、太公望はようやく理解した。おそらく、フーケたちは『破壊の杖』に関する詳細な情報を欲しているのだ。盗品を高値で売り払うために、それは絶対に必要なことであるから。絵を描かせて『破壊の杖』の見た目がどんなものであるのかもわかった。そして、許可を得た上で、試してみようと考えた。彼にとって、まったく面倒なことではあったのだが。

 学院長室へ到着した後、太公望はすぐさまオスマン氏とタバサにこれらの見解を伝えた。驚きに目を見開いたふたりに、自分の『策』を披露し――それは実行に移された。

「で、その結果がソレってわけですか」

 なんのことはない。太公望が先回りして現場へ赴き、そこにあった『破壊の杖』を回収してきただけのことだ。現時点での最有力容疑者であるロングビルに、監視役としてタバサを張り付かせて。そのために、彼はわざわざ体力が尽きているような真似をしてのけていたのだ。

「あたしたち、囮の囮をさせられてたってわけね」

「ぼやくでない、おかげで貴重な時間をかせぐことができたんだからの」

 太公望が『破壊の杖』を持って帰還した後――タバサたち一行が戻ってくるまでの間に、学院長は教師たちに事情を説明し、全員でフーケ、あるいはその仲間と思われるロングビルを取り囲むべく指示を出していた。どんな手練れのメイジでも、この人数に囲まれては何もできないだろう。そして、もしこれが国中の貴族に煮え湯を飲ませ続けてきたフーケ捕縛に繋がれば、それはとてつもない名誉となるに違いない――オスマン氏の言葉に、教師たちは奮い立った。

「そこでじゃ、捕縛の総仕上げという名誉に与るのは――」

 ちらりと太公望と視線を合わせるオスマン。頷いた彼を見て、言葉を続ける。

「ミス・ヴァリエール。もっとも早く『杖』を掲げた君にこそ相応しいと思うのじゃが……どうじゃ、この老いぼれの願い、聞き届けてくれるかの?」

 ――勇んでその役割を引き受けたルイズは、それが『破壊の杖のケースを持って、才人の後ろに立っていること』だと聞いたときはさすがに耳を疑ったし、断ろうかとまで考えた。しかし、それが相手の油断を誘う策だと聞いたことと。

「ど、ど、どこに行くのかしら? ふ、ふ、フーケさん」

「噛んだ」

「見事に顔がひきつっておるな」

「フーケとか言っちゃダメだろ」

「やっぱり、ヴァリエールにこういう演技は無理よね」

「う、うるさいわねっ!」

 今から演技指導をするにはあまりにも時間がないということで、それは使い魔――最初に指名されていた才人の役目にするということで、ようやく納得した。ちなみに、才人の演技は一発目からして太公望から太鼓判を押されるほど、自然な出来ばえであった。


○●○●○●○●

「諸君らの尽力により、見事『土くれのフーケ』を捕縛し、『破壊の杖』を取り戻すことに成功した。学院の名誉は守られ、盗賊は牢獄へと送られる。一件落着じゃ」

 フーケが縄を打たれて、学院の衛兵たちに引っ立てられていった後。裏庭では、オスマン氏による演説が行われていた。誇らしげに胸を反らす教師たち。中でも、当直をサボり、フーケに盗難を許したという大失態を見せたにも関わらず、名誉挽回の機会を与えられたミセス・シュヴルーズは、感激のあまり失神してしまう有様であった。

「ここにいる教員皆の手柄について、王室へ報告することを約束しよう。また、ささやかではあるが、わしのポケットマネーからボーナスを支給する」

 裏庭に、再び歓喜の声が沸き上がる。

「そして、フーケ討伐に最も貢献した者たちを紹介する」

 オスマン氏に手招きされ、タバサ、ルイズ、キュルケ、才人、太公望の5人が前へと進み出る。彼らは拍手によって迎えられた。

「中でも、特に危険な役目を買って出てくれたミス・ヴァリエールについては、王室へ『シュヴァリエ』の爵位を、既に『シュヴァリエ』を持っておるミス・タバサと、彼女たちに協力したミス・ツェルプストーについては精霊勲章の授与を申請することによって、この功に報いたいと思う」

 3人の顔がぱっと輝いた。

「なおミスタ・タイコーボーはロバ・アル・カリイエのメイジ、サイト君については貴族ではないため勲章の授与はできないが、わしから金一封を与えるということで、労わせてもらう」

 再び、彼らを拍手が包み込む。5人は、礼――ルイズ、タバサ、キュルケの3名は、貴族の名に恥じぬ優雅なお辞儀で、才人は学校で習った45度ほど腰を曲げる最敬礼で、太公望は、包拳の礼でそれに応えた。

 そんな彼らを笑顔で見つめていたオスマン氏は、ぽんぽんと手を打つ。

「さてと、今夜は『フリッグの舞踏会』じゃ。見事『破壊の杖』も取り戻せたことだし、予定通り執り行う。以上、解散じゃ!」

 再び大きな歓声が上がり、その場に集まった者達は散り散りになってゆく。最後まで残ったのは、オールド・オスマンと『破壊の杖』を抱えたコルベール、そして討伐隊に加わった者達だけであった。静かになった裏庭に、切実な声が響く。

「あ、あの、金一封とかいりません。かわりに、聞きたいことがあるんです……その、破壊の杖がどこから来たのか、それと……これについて」

 左手のルーンを見せながらオスマン氏に願い出たのは才人。ルイズが驚いたような表情で見つめている。

「わしは金一封の中身がどれほどのものなのか、具体的に話し合いたいのだが」

 続いたのは太公望。タバサの瞳が、好奇心で溢れている。オスマン氏は、思わず大きなため息をついた。両方とも、相当な難題であると。

「ここではなんじゃし、ふたりとも学院長室へ来たまえ。コルベール君も、すまんが『破壊の杖』を持ってついて来て欲しい。ミス・ヴァリエールと、ミス・タバサにも関わりのあることじゃが、君たちはどうするね?」

「行きます」

「聞きたい」

 即答したふたりへ、頷き返すオスマン。

「あたしは、舞踏会の準備がありますので、お先に失礼しますわ」

 そう言ってキュルケは、踵を返した。こっそりタバサに向けてウィンクをして。あとで話せ、ということだろう。

 ――オスマン氏の長い長い1日は、まだまだ終わりそうもない。


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