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 ←第1話 雪風、使い魔を得るの事 →第3話 軍師、異界の修行を見るの事
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「雪風と風の旅人」
歴史の分岐点

第2話 軍師、新たなる伝説と邂逅す

 ←第1話 雪風、使い魔を得るの事 →第3話 軍師、異界の修行を見るの事
 ――太公望がタバサの部屋で、新たに訪れた世界『ハルケギニア』の成り立ちについて詳しい説明を受けはじめた頃。未だ続いていた<使い魔召喚の儀>において、再び現場監督兼責任者たるコルベールの頭皮を直撃するような事態が発生していた。

 桃色がかったブロンドの髪の少女が、自分の前へ現れた黒髪の少年に問いかける。

「あんた誰?」

「誰って……俺は、平賀才人」

 なんと、またしても人間が召喚されてしまったのである。

「おいおい、『ゼロ』のルイズまで人間を呼び出したぞ!」

「う、うるさいわね! ちょっと間違っただけよ!」

「間違いって、ルイズはいつもそうじゃん」

 さきほどの件もある、下手な対応はできない。そう考えたコルベールは、新たに召喚された人物を詳しく観察する。

「な、なんなんだよ、ここは! コスプレ会場? おい、まさか新手の新興宗教か何かの集まりじゃないだろうな!?」

 おそらく、突然行われた<召喚>に戸惑っているのだろう。意味不明なことを口走りながら、周囲をきょろきょろと見回しているが……正直、これが普通の反応だとコルベールは思った。さっきの子供は、あくまでも例外だと。

「ひょっとして、映画かなにかの撮影か? カメラはどこだ! あっちか!?」

 ひたすらわめき続ける少年の服装を、コルベールは詳しく分析する。

 彼が羽織っているのは、青い……フードつきの胴衣だろうか。それにスラックスを履いている。タイコーボーと名乗った少年と比べるとだいぶ地味なものを身につけているが、これまたトリステインではまず見ないであろう造りの服だ。使われている布地自体も、今まで見たこともないような光沢を放っている。

 さらにコルベールは、召喚されてきた者の顔形にも注目した。黒い髪と瞳、それとやや黄色がかった肌の色といった特徴が、微妙に先の子供とかぶる。もしかすると彼も『シュウ』という国から来たメイジなのかもしれない。コルベールは相手に気取らぬよう、こっそりと<探知>を唱えた。魔法の反応は――なし。つまり、この少年は『平民』だ。

 コルベールは、心底ほっとした。これで脅威レベルは大幅に下がったといって差し支えないだろう。だが、念のためだ。この少年に対してあまり無体な扱いをしないよう、しっかりと注意をしておいたほうがいいかもしれない……そう判断した彼は、儀式を執り行った女子生徒に対し、必要と思われる指示を与えた。


 ――平賀才人(ひらがさいと)17才、高校2年生。

 蒼き星『地球』の平和な国家・日本に生まれた、ごくごく普通の男子高校生である。運動神経は、並程度。彼女イナイ歴、年齢と同じ17年。

 担任教師の彼に対する評価は、

「ああ、平賀くんですか。成績は学年内では中の中といったところです。負けず嫌いで好奇心が強いところは評価できるけれど、ちょっとヌケてるところがありますね」

 母親の口癖はというと、

「もっと勉強しなさい。あんた、どっかヌケてんだから」

 そんな少しばかりヌケているが、どこにでもいるような少年の運命はこの日――日本の首都である東京・秋葉原の街にあるパソコンショップで修理が済んだばかりのノートパソコンを受け取り、都内にある自宅へと帰る途中……奇妙な物体と遭遇してしまったことで一変した。

「なんだこりゃ? 電光掲示板……じゃ、ないよなあ」

 縦2メートル、横幅は1メートルぐらいのぴかぴか光る楕円形の物体が、彼のすぐ側に突然現れたのだ。おまけにどうなっているのか理屈は全くわからないが、それは宙に浮かんでいるようであった。

「鏡みたいにも見えるけど、厚みは全然ないな。蜃気楼ってわけでもなさそうだし、どうなってんだこれ? ただの自然現象にしちゃおかしいよな」

 才人の好奇心が激しく疼いた。彼は、この物体が一体何なのか知りたくなった。そして、その『鏡』のような物体をまじまじと見つめ――とりあえず実験を開始した。

 まずは、足元に落ちていた小石を投げつけてみた。すると、驚くべきことに鏡の中へと消えてしまった。裏側にも落ちていない。何個放ってみても結果は同じであった。

「ほほう。なかなか面白いじゃねえか」

 続いて、道ばたに落ちていた棒きれで突っついてみたのだが――何も起こらなかった。少なくとも棒の先が折れたり、傷ついたりといったようなことはなかった。石を投げたときと同じで、裏側に先端が突き出してもいない。

「うは、おもしれえ!」

 そこで分析をやめていればよかったのだが……よりにもよって、才人はこの物体に自分が触れたらどうなるのか。それを試してみたくなってしまった。

「棒はなんともなかったんだから、俺が触っても危険はないってことだよな!」

 最初はやめようかとも思った。しかし、すぐにそれは「ちょっとだけなら」に変わった。さらに「触れてみよう」から「くぐってみよう」に変化した。非常に短絡的かつ、いけない性格である。そして、ついに彼は大胆にも『鏡』の中へ上半身を突っ込んだ。

 ――その結果。才人少年は鏡の中にあった『道』に引きずり込まれ、まるで全身に電気を流されたような激しいショックに襲われた。

「うう、俺、なんてアホなことを……」

 という後悔に苛まれつつも、そのまま気絶してしまう。

 気が付いた時には、見知らぬ異世界ハルケギニアに<召喚>されており。その混乱から立ち直れないうちに――問答無用で――地球では、お伽噺の中にしか存在しないはずの魔法使いにして大貴族の三女『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの<使い魔>にされてしまった。

 『好奇心は猫をも殺す』とはよくいうが、才人はその典型的な例といえるだろう。

 ――この物語本来の『道』を辿っていれば……才人少年は、その最初の1ページ目からして相当な苦難に見舞われるはずであったのだが、しかし。偶然先に召喚されていた人物のおかげで、間接的なものであったにせよ、綴られるべきであった『歴史』より、ほんのちょっとだけ他者からの扱いが良くなったことを、念のためここに記す。


○●○●○●○●

 ――同日。時刻は、既に夜となっていた。

 太公望は、タバサから「この世界における一般的な常識について」説明を受けつつ窓の外を見た。そして断定した。やはり、ここは地球ではない。決定的な証拠がある。空に浮かんだあの巨大な月だ。

 百歩譲って、そう見える土地があったのだとしても。ふたつあるのはどう考えてもおかしい。ふと、月の側に浮いていた宇宙船『スターシップ蓬莱島』の存在が頭をよぎったが、亜空間バリアに守られているアレがあんな風に見えるはずがないのだ……それに。

「メイジ、か」

 この世界における<メイジ>と呼ばれる存在。当初は自分たち<道士>や<仙人>と同じようなものだと考えていた太公望は、それが全くの思い違いであると知らされた。

 ――仙人とは「生命としての道を究めんとする者」。

 『仙人骨』という100万人に1人の確率で生まれる特殊な骨格を持った者が、空間を隔てた異界である<仙人界>の者からのスカウトを受け、長い修行を積むことで『生命の道』を極め、不老不死となったのが<道士>だ。

 ……ちなみに。この<道士>が師に実力を認められて独立し、その後弟子をとることで初めて<仙人>と呼ばれるようになるのだが、本作においては以後この両者を<仙人>と表記するので予めご了承戴きたい。

 『生命の道』を極めると、歳をとるのが極端に遅くなる――よって、若いうちに『秘法』を極めることができた者ならば、たとえ100年経過しても若者の姿のまま生き続けることになる。太公望はその典型的な例だ。しかも、彼らは寿命で死ぬことがない。

 逆に言えば、病気や自殺・他殺その他の理由で命を失うことはある。つまり、不死の身体『不死身』ではないのだ。そういう意味ではごく一般的な生命体と何ら変わらない。

 とはいえ、病に斃れたり他者に害されて肉体を滅ぼされたとしても『魂魄(こんぱく)』さえ残れば、意識を保った上で活動することができる。熟達した者ならば、その状態から新たな肉体を得ることすら可能なのだ。

 そんな彼ら<仙人>は『宝貝(ぱおぺえ)』と呼ばれる特殊な道具を用いて、周囲の気象を操るなど、強力な事象を発生させる強大な<力>を持つ。また、これはごく一部の者に限られるが<仙術>と呼ばれる特殊な技能によって空を飛んだり、他者の傷を癒したり、水を酒に変えるなどの摩訶不思議な現象を引き起こせる者たちも存在する。

 ――メイジとは「魔法を使う者」。

 『魔法語(ルーン)』と呼ばれる特定のキーワードを口にすることで、それに対応した事象を発生させることができる。ただし、メイジの血を引かぬ者は、どんなに努力しても魔法を使うことはできない。このあたりは仙人に近いものがあるといえるだろう。

 ただし、魔法を使うためには、特殊な契約を結んだ『杖』を用いる必要がある。つまり、杖を持たぬメイジは普通の人間となんら変わらぬ存在ということだ。

 <力>を持たぬ者から見ると、まるで奇跡だとしか思えないような事象を引き起こすことができるという点において、一見似通っているようにも思える両者なのだが……その在りかたが大きく異なる。

 仙人は基本的に人間を超越した存在であり、その<力>ゆえに<人間界>に与える影響を畏れ、積極的に世界へ干渉することは――ごく一部の例外を除き、ほとんど無いといっても過言ではない。

 いっぽうメイジは、その多くは王族、あるいは貴族として各国の支配階級となり『平民』と呼ばれる<力持たぬ民>たちの上に君臨しているらしい。

 なるほど、自分の持つ宝貝は彼らの持つ杖のように見えなくもない。懐から『打神鞭』を取り出したあのとき、周囲の空気が変わったのはそういった事情があったからなのかと、太公望は納得した。それにしても――。

「皮肉なことだのう」

「何?」

 太公望のつぶやきを耳に留めたタバサは問う。

「いやなに、こっちのことだ」

 思わずため息をつきながら、太公望はタバサに先を促す。

 この世界における価値観についてどうこう言えるほど、太公望は自惚れてなどいない。しかし、よりにもよって『強大な力をもって、民衆を支配する邪悪な仙人』を打倒すべく戦ってきた自分が、その『敵』とほぼ同じ立場の者であると認識されてしまったというのは――正直なところ複雑な気分だった。

 『所変われば品変わる』と言うしのう……と、なんとか自分の気持ちに折り合いをつけようと太公望が苦戦していたところへ、コン、コンッと規則的に扉を叩く音がした。来訪者はミス・ロングビルと、大きな荷物を持った学院の使用人だった。

「お二人にはしばらくご不便をおかけしてしまいますが……」

「別にいい」

「部屋の主がこう言うのだ、わしもかまわぬぞ」

 ミス・ロングビルたちが持ち込んだのは、敷物と毛布であった。曰く、突然のことで部屋に空きがなく、寝具の用意もままならなかった。寝具については早急に手配するが、部屋については申し訳ないが、しばらくタバサの部屋で寝泊まりしてほしい、と。

 しきりに恐縮しながら部屋を去る彼女たちを見送った後、扉を閉めようとしたタバサは、太公望によってそれを阻まれる。

「さて夜も更けた。今日はここまでにして、寝るとしようかの」

「それなら何故」

 タバサは問うた。いったいどうして、扉を開けっ放しにしているのか?

「おぬし、その服のまま眠るわけではなかろう? 着替えが終わるまで外におるから、済んだら声をかけてくれ」

 そう言って振り向きもせず廊下へ出た太公望は、後ろ手で扉を閉めた。

「……意外に紳士?」

 思わず漏れたタバサのつぶやきは、幸いにも彼の耳へは届かなかった。


○●○●○●○●

 ――いっぽう女子寮2階のある一室では、激しい言い争いが繰り広げられていた。

「あんた、一体なんなのよ!」

 桃色がかったブロンドの髪を振り乱しながら少女――ルイズが叫べば。

「それはこっちのセリフだ! いい加減真面目に説明しやがれ!!」

 黒髪の少年――平賀才人が、負けじと言い返す。

「わたしは大真面目よ! まったく……トリステインを知らないだなんて、我ながらとんでもない田舎者を呼び出しちゃったものね」

「東京は田舎なんかじゃねえよ」

「トウ・キョウ? そんな地名、聞いたこともないわ。やっぱり辺境じゃない」

「そりゃお前の基準だろ! 世界が自分中心に回ってると思うんじゃねえぞ」

 ルイズはむっとした。使い魔のくせに生意気な。ここは、主人として相応しい教育をしてやらねばなるまい。そう考え、得意の蹴りをお見舞いしてやろうと構たのだが……それからすぐに大切なことを思い出し、硬直した。

 ――いいですか? 彼は平民とはいえ人間です。それも、先程召喚された少年と何らかの関わりがある可能性があります。普通の使い魔ではないということを念頭に置いて、貴族として相応しい振る舞いをするのですぞ。

 そうだ、先程コルベール先生からそう釘を刺されていたではないか。

 確かに生意気だし無礼ではあるが、暴れたりするわけでもないのに手を挙げるだなんて、とんでもない。行儀の悪いバカ犬を躾けるわけではないのだから。

 貴族(メイジ)と平民は、狼と犬ほど違う種だとよく言われるが、それでも人間には違いない。頭に血が上っていたとはいえ、危うく公爵家令嬢として相応しくない真似をするところだった……。

 外の空気でも吸って、少し気分を落ち着けたほうがいい。そう思ったルイズはカーテンを引き、窓を開けた。いつのまにか夜になっている。

 と……先程まで興奮していた少年が、ぽかんとした表情で空を見上げている。

 彼の瞳には、紅と蒼の双月が映っている。ルイズにとってはなんてことのない、見慣れた光景だったのだが――。

「ねえ、なにあれ」

 目の前の少年には、どうやらそうでもなかったらしく。

「月だけど……まさか、初めて見たなんてふざけたこと言わないわよね」

「月……だよな。なんでふたつあんの?」

「月がふたつあるのは当たり前でしょ」

 やっぱりこいつ、どこかおかしいんじゃないかしら。などとブツブツと呟く少女の声は少年――才人には届いていなかった。

 立ち上がって窓から手を伸ばしてみたが、スクリーンのようなものにぶつかる気配はなかった。辺りを見回してみても、仕掛けのようなものは欠片も見当たらない。

 ひとが空を飛ぶのも、魔法も、見たこともない生き物がそこら辺を彷徨いているのも何かのトリックかと思った。しかし、あの月を見てしまったら、もう認めるしかない。

「俺は夢を見てるんだな、うん」

 それから才人は、ルイズに向かって言った。

「頼みがある」

「あによ」

「殴ってくれ」

「は? な、何? あ、あんた、そそ、そういう趣味があったりするわけ?」

「ちげーよ! いいからさっさと殴ってくれ。思いっきりだぞ」

「ど、どうなっても知らないわよ?」

 スコーンという小気味よい音が室内に響き渡り、才人はその場で気絶した。

 ――それから1時間ほどして。

「夢じゃなかった」

 むっくりと起き上がりながら出た才人の声に、呆れたような呟きが重なった。

「何がしたかったのよ、あんた」

 夢じゃない。これは紛れもない現実なのだ。かなりファンタジー入ってるけど。

 才人は己の好奇心を激しく恨んだ。あんなもの、くぐらなければよかった。もう夜も遅い時間のはずだ。父さんも母さんも、俺が帰ってこないから心配してるだろうな……。

 それに――と、才人は内心唸った。彼の元へ大切なメールが届いているかもしれない。

 ……実は、半月ほど前。才人は出会い系サイトに登録し、彼女募集の書き込みをした。それからすぐにパソコンが壊れてしまったせいで、まだメールをチェックできていない。もしもあの『鏡』に出くわさなかったら、今頃液晶ディスプレイを介して可愛い女の子とオハナシが出来ていたかも……いや、まだ諦めるのは早い!

 今にも泣きそうな声で、才人はすぐ側にいた少女――ルイズに哀願した。

「家に帰して」

「無理」

「なんで? 連れてこれたんだから、元の世界に戻せるだろ?」

「あんたは! わたしの使い魔として! 契約を済ませたの! 神聖な儀式だから! もう動かせないの!!」

「ふざけんな!」

「わたしだって、やり直せるならやり直したいわ! ほんと、なんであんたみたいなのが使い魔なのよ……だいたい、元の世界って何? 意味がわからないわ」

 そこまで言われて、ようやく才人は気がついた。こいつ、俺を異世界から呼び出したっていう認識がないんだ――と。

 彼は、早速その考えを改めてやることにした。

「俺は、この世界の人間じゃない。地球という星から呼び出されました」

「は?」

「俺がいた世界の月はひとつです。魔法使いなんてどこにもいません」

「どこにあるのよ、そんな世界!」

「俺がいたところがそうだって言ってるんだよ!」

「信じられないわ、そんなの」

 はぁ~っと溜め息をつく才人。これではいくら話しても平行線だ。ならば……と、持っていたノートパソコンを取り出し、電源を入れる。

「ほれ、これが証拠だ。こんなもん、この世界にゃないだろ」

 テロレロレーン。というお馴染みのOS起動音が室内に響き渡る。

「オルゴールでしょ? そんなのどこにでもあるわ」

「違うっつうの。いいから黙って見てろ」

「平民のくせに、貴族に対する口の利き方が……」

 ルイズがそこまで言ったところで、ノートパソコンの液晶画面にデスクトップが浮かび上がる。普段は好きなアニメの壁紙が設定されているのだが、修理に出す前に夜の海と満月という、ごくごく普通の風景写真に差し替えていたのが功を奏した。

「何これ。どんな魔法で動いてるの?」

「そんなの使ってねえよ。これは機械だ」

「魔法もなしに、こんなことやれるわけないでしょ! 馬鹿にしてんの!?」

「俺の世界ではできるんだよ。ほれ、この写真見てみろ。月がひとつだろうが」

「シャシン……? あ! もしかして絵画なのかしら? ものすごく腕のいい画家がいるのね。でも、だからどうだっていうの? たまたま月をひとつしか書かなかっただけでしょ。何の証拠にもならないわ」

 だめだ、話が通じない。大昔に鉄砲持って種子島に来た外人さんもこんな気持ちだったんだろうなあ。そんなことを頭の片隅で考えながら、才人は妥協案を出すことにした。

「俺が使い魔ってのを動かせないのはわかった。わかりたくもないけど我慢する。地球について知らないのも理解した。だから、家に帰して」

「無理よ」

「なんで? 一旦家に帰ってからなら使い魔やってやるって言ってんだよ、俺は!」

 すると、ルイズは困り果てたような顔で告げた。

「あんたの家と、ここを繋ぐ魔法なんてないもの」

「はああああ!? だったら、どうやって俺はこの世界に来たんだよ!」

「知らないわ! <サモン・サーヴァント>は、あくまで使い魔を自分のところへ呼び出すための魔法であって、元の場所へ送り返す機能なんて、最初からついてないもん」

「勝手に呼び出しておいて、そりゃねぇだろ!」

「そもそも<サモン・サーヴァント>は、動物や幻獣を呼び出すための魔法なの。フクロウとか、グリフォンなんかをね。人間が召喚されるなんて話、聞いたことないわ!」

 もっとも、その常識はあんたが来る少し前に打ち砕かれたばかりなんだけど。と、ルイズは頭の中で続ける。

「もしかしてお前、魔法失敗したんか?」

 それを聞いたルイズは、頭から湯気を噴き出しそうな勢いで怒鳴った。

「ちち、違うわ! ちゃんと呪文は成功したし、げ、ゲートだって開いたんだから!」

 その興奮ぶりにやや気圧されながらも、才人は負けじと怒鳴り返した。

「なら、どうして俺はここにいるんだよ!」

「そ、そうよ! ゲートの近くに何か動物がいたでしょ? きっと、その子がわたしの本当の使い魔で……あんたがうっかり門をくぐっただけなんじゃない?」

「いいえ、俺の周りには何もいませんでした。つか、あんなのうっかりはくぐらねえよ。いろいろ調べて危なくなさそうだから触ってみたら、この有様だけどな!」

 それを聞いたルイズはう~ッと唸り声を上げた。こいつ、ほんと怒ってばっかりだな。笑えばもっと可愛いと思うのに、色々と残念なやつだ。などと失礼なことを考えていたそのときだ、才人の脳内に電撃の如き閃きが到来したのは。

「そうだ! もう一度その召喚の魔法をかけてみてくれ」

「なんで?」

「門を開く魔法なんだから、それをくぐれば元の場所に戻れるかもしれないだろ」

「無理」

「なんでもかんでも無理無理無理って! やってみなきゃわからねえだろうが!!」

「そんなこと言われても、今は唱えることすらできないわ」

「どうして?」

「<サモン・サーヴァント>はね、呼び出した使い魔が死ぬまで発動しなくなるの」

「マジすか」

「で、どうする? 試しに死んでみる?」

「いや、やめとく……」

 才人は項垂れた。その拍子に、左手に刻まれたものが目に入る。文字、だろうか。

「そのルーンは『わたしの使い魔です』っていう印のようなものよ」

「さいですか……」

 ルイズは腰掛けていた椅子から立ち上がると、腕を組み、胸を反らした。

 やっぱり可愛いな。と、才人はこんな状況にも拘わらずそんな感想を抱いた。

 背はそれほど高くない。154、5センチくらいだろうか。桃色がかったブロンドの髪は目を引くし、鳶色のくりくりとした瞳は、まるで猫のようによく動く。胸部のサイズが少々……いや、かなり寂しいというか平坦に近くはあるのだが、出会った場所や状況が違えば、飛び上がって喜ぶレベルの美少女だ。

 だけど、ここは東京じゃない。それどころか、地球ですらない。どうやって帰ればいいのかすらわからない――。

 改めて自分の現状を思い知らされた才人はぺたんと床に尻餅をつき、項垂れた。不本意だが、しばらくは目の前にいる女の子の言うことを聞くしかなさそうだ。

「はあ、仕方ねえ。とりあえず、お前の使い魔とやらをやってやる」

「なあに、その態度! 『何なりとお申し付けくださいませ、ご主人さま』でしょ」

「くそ、調子こきやがって……」

「あんたの食事と寝床、誰が用意すると思ってんの?」

「へいへい、わかりましたよご主人さま。けどさー、俺、何すりゃいいの?」

 以前才人がテレビで見た魔法使いが出てくる海外ドラマに、カラスやフクロウなどの使い魔がいたのを思い出した。遠くへ手紙を運んだり、主人の手伝いをする――ありていに言えば、小間使いのような存在だった記憶がある。

「まずはそこから説明しなきゃいけないのね。いいこと、使い魔は……」

 ルイズの説明によると、主人と使い魔は視覚や感覚の共有ができるらしい……が。何も見えないし、感じなかった。

 また、魔法に使う秘薬を探してくる役目もあるようだが、異世界出身で右も左もわからない状態の才人にそんな真似ができるはずもなく。

「ええと、それから……」

「まだあんのかよ」

「黙って聞きなさい! 落ち着きがないわね」

「へいへい」

 コルベール先生にはああ言われたけど、やっぱりある程度の躾けは必要なんじゃないかしら……蹴りを入れる以外の方法で。そんな風に思いながら、ルイズは続けた。

「主人の盾になって、その身を守ることなんだけど……無理そうね、あんた弱そうだし。カラスにだって負けそうだわ」

「カラスなめんな。あいつら頭いいし、集団で来るから結構強えんだぞ」

「つまり勝てないのね?」

「う……」

「感覚共有はダメ、秘薬探しも無理、カラスより弱い。いいとこなんにもないじゃない」

「ほっとけ」

 はあっと大げさに溜め息をついたルイズは、結論を出した。

「仕方ないわね、あんたにもできそうな仕事をあげるわ」

「何させるつもりだよ」

「掃除、洗濯、それと雑用」

「ざけんな!」

「何? あんた、他にできることがあるの?」

 アクションゲームは得意だけど、それが異世界で何の役に立つというのか。武術の心得なんてあるわけないし、運動神経も並程度。才人はしぶしぶといった表情で答えた。

「……雑用でいい」

「わかればいいの。これからは使い魔として、わたしに誠心誠意尽くしなさい」

 言い終えたと同時に、ルイズは大きなあくびをした。

「今日はいろいろありすぎて、なんだか疲れちゃった」

「俺もだ」

「夜も更けてきたし、そろそろ寝るわ」

 ベッドのある方向へ歩き出したルイズに、才人は聞いた。

「なあ、俺はどこで寝ればいいんだ?」

「床。絨毯のところを使っていいわ。光栄に思いなさいよね」

 そう告げて、ルイズは才人に向かって毛布を放り投げる。

「おい、俺は犬や猫じゃねえんだぞ」

「だって、ベッドはひとつしかないし」

 それなら一緒に……なんて、才人は言い出せなかった。初対面の美少女相手にそんなことが言えるくらいなら、そもそも出会い系サイトなんて利用しない。なので、彼は精一杯の反抗――ふてくされたような声を上げた。

「用意くらいしとけよ!」

「だから! 人間が召喚されるなんてこと自体が想定外なんだってば!」

 怒鳴りながら、ルイズはブラウスのボタンを外し始める。それを見た才人は慌てた。

「お、おま、なな、なにしてんだよ!」

「寝るから着替えるのよ……って、ああ!」

 ふふん、やっと男の前で服を脱ぐことの危険性に気付いたか。才人はそう考えたのだが……何故かルイズは両手を広げて突っ立っている。

「あの、何してんすか」

「着替えさせて」

 同じ年頃、それも超がつく美少女の生着替え。しかも、脱がせるのは俺。

 何このシチュエーション。思わず鼻血を吹きそうになった才人であったが、どうにかそれを押さえ込んだ。

「いや、でも、それって……あの、ええと、ま、まずくない?」

「何が?」

「何がって……お前、男に見られて平気なの?」

「使い魔に見られたって、別に何ともないわ。だいたい、屋敷にいたころはいつも使用人に着替えさせてたんだし。それと同じよ」

 ああ、なるほど。俺は男扱いされてないってことか。つか、使用人に服着せてもらうとかどんだけお嬢さまなんだコイツ。

 ――嬉しいけど腹の立つ初仕事を終え、ご主人さまが寝息を立て始めた後。才人は毛布を被りながら思考に耽っていた。

 どうにか地球へ戻る手がかりを得るその日まで、この世界で生きてゆくために……今は我慢するしかない。逃げ出そうかとも思ったが、そんな真似をしたところでどうなる。ルイズの反応から察するに、異世界云々の話をしたところで誰も信じないだろう。

 そもそも、生きていくことすら覚束ない。俺はサバイバルに長けた傭兵じゃないし、冒険を求める探検家でもない。どこにでもいる、ごくごく普通の高校生なんだから。

「今の俺は、素直にあいつの使い魔やらなきゃ生き残れないっつうことか」

 やたらと威張るしクソ生意気だけど、可愛いのが唯一の救いかな。そうだ、出会い系サイトであいつと知り合った。そんで、あいつの家がある外国にホームステイしに来たと思えばいい。思う。思え。思い込むんだ、俺。

「あいつの手伝いをして、メシをもらう。できれば給料も。それを元手にあちこち調べる。そんで、地球へ帰るための方法を見つけるんだ」

 ――どこにでもいる、ごくごく平凡な高校生。

 才人自身はそう思い込んでいたが、とんでもない。異世界召喚などというありえない事態に巻き込まれたにも関わらず、この適応力。単に周囲に流されやすい、諦めが早いとも言えるだろうが……少なくとも普通の人間ならばこうはいかない。

 太公望とはまた違った意味で、彼も充分『規格外』なのであった。


○●○●○●○●


 ――明けて翌朝。

 太公望が目覚めて最初に見たものは、知らない部屋だった。わしはまだ夢の中にいるのだろうか?

 寝起きでぼんやりした顔のまま、周囲を見回す。ああ、そうだ<召喚>されたのだったな……と、前日の出来事を思い出した。

「くぁ……」

 太公望は、床の中で伸びをしてから起き上がった。部屋の主であるタバサは、まだ寝台の上で寝息を立てている。改めて観察すると、ずいぶんと幼く感じた。昨日は終始緊張していたようだが、今こうして見る寝顔は年相応のそれに思える。

 夜明けまで、まだ余裕がある。だいぶ早起きをしてしまったようだが、周囲の様子を確認するには丁度いい。少女を起こさないよう、太公望はそっと窓を開け外へ飛び出した。

 ……ちなみに、タバサの部屋は高い塔の5階にある。

 タバサの部屋から出た太公望は、まずは付近の地形を確認するべく、学院の遙か上空へと舞い上がった。

 出てきた塔から見て、右手に大きな石造りの塔が建っている。昨日案内された学院長室があるのがあそこだろうと当たりをつけた。その塔を中心に、五角形の外壁と、その頂点を結ぶように中央の塔より背の低い塔が位置していた。子供たちの学舎と聞いていたが、城といっても差し支えない、立派な佇まいである。

「さて。まだ時間はあるようだし、街の場所も確認しておきたいところだが」

 ここがメイジたちの修行場であるのなら、街は別の場所にあるはずなのだが……学院の周囲にそれらしきものはなく。おそらく一般の人間たちが住む場所から相当離れているのだろうと太公望は推測した。

 ならば、さらに高度を上げるか――そう思ったとき、眼下に通行人を見つけた。


 ――平賀才人は、道に迷っていた。

 朝。目が覚めて、昨日のアレ――突然、異世界の美少女魔法使いに<召喚>されたことが夢などではなく現実なのだと改めて思い知らされたばかりであったのだが、しかし。持ち前の好奇心が後悔に勝ってしまった。なんとも本当に懲りない男である。

 すぐ側にあるベッドの上で、今もぐーすか寝ているご主人さまを起こしたら、色々とうるさいことになる。そう判断した才人は、足音を忍ばせ、こっそりと外へ出た。

 そして、才人はさっそく学院の周囲を散策しはじめた。目の前に広がる未知の光景に、きらきらと瞳を輝かせながら。

「すっげえな! 中世ヨーロッパのお城みたいじゃないか!!」

 石で出来たアーチ型の大門に、同じく重厚な石造りの階段。規則正しく植えられている立木たち。もはや完全に観光旅行気分で、才人は異世界の探検を続ける。

 だが、そんなふうに調子に乗って長時間あちらこらちと歩き回っているうちに、元いた部屋がどこにあるのか、さっぱりわからなくなってしまった。

 才人は焦った。朝7時になったら起こすよう、前の晩に厳命されている。寮塔を出た時点
では5時を少し過ぎた程度だったのだが……あれからかなり時間が経っている。

 使い魔の仕事をこなしながら、地球へ帰るための方法を探す。そう決めたはずなのに、決まった時間に主人を起こす程度のごく簡単なことすらできないと思われてしまったら……どうなるかわからない。最悪、ここから追い出されるんじゃなかろうか。

 ……そうなったが最後、ほぼ間違いなくのたれ死に一直線だ。

 才人が本気で困り果てていたそのときだった。後方から救いの声が聞こえてきたのは。

「そこのおぬし。ちと尋ねたいことがあるのだが、かまわんかの?」

 ――俺より年下か、同じくらいの年齢に見えるのに……妙にジジくさい喋り方をするヤツだなあ。平賀才人の太公望に対する第一印象は、そんなものであった。

「ん、何?」

「ここから一番近い街へはどう行けばよいのか、教えてはもらえぬかのう?」

 才人にそんなことがわかるわけがない。彼は昨日、いきなりこの世界に連れてこられたばかりだったし、そもそも現時点で自分が迷子になっているような状況なのだ。だから、才人は正直にそう答えることにした。

「悪い、俺もまだここに来たばっかでさ。それよか、寮塔ってどこにあるんだか知らないか? ここってすっげぇ広いだろ、迷っちまって」

「なぬ? それなら、ここから正反対にある……あの塔だ」

 先端に宝玉のついた教鞭のような杖の先で示された場所を見て――才人は驚愕した。

「うっ、めちゃくちゃ距離あるじゃねえか。こんなに遠くまで来てたのかよ!」

 才人はガックリと肩を落とした。

「ああくそ、またやっちまった! このままじゃ、俺……どうなるかわかんねえぞ」

 才人は落ち込んだ。ぺしゃんこになった。マリアナ海溝の底より深いところまで引きずり下ろされたクラゲもかくや、というレベルまで。

「こんなところで迷ってて……間に合わない……絶対やばいって……」

 顔を真っ青にして、ブツブツと呟いている。そんな才人を海溝の底からすくい上げ、もとい釣り上げたのは、質問に答えてくれた少年だった。

「まあ、今日のところはこのあたりにしておくか。おぬし、ずいぶんと急いでおるようだのう。どれ、わしが一緒に連れて行ってやろう」

「は? 連れて行く!?」

「おぬし、高いところは大丈夫か?」

 え? どゆこと!? 才人は、完全に混乱してしまった。

「ああ、大丈夫だけど」

 なに真面目に答えてんの? 俺。今、それどころじゃないだろ。混乱を続ける才人の内心を知ってか知らずか、太公望はその場でくるりと背を向けると――彼にこう告げた。

「そうか、ならば肩に掴まれ」

 ……そして才人は、再び奇跡を『体感』することとなる。

「ファンタジーすげえ!!」

 才人は思わず叫んでいた。

 魔法使いの背に乗って見た朝日は、彼がテレビで見たことのある環境番組のワンシーンよりも、ずっと綺麗だった。すげえよ、これでこそ魔法の世界だよ! これから、まだまだ見たことのないモノを見ることができるんだろうか。才人の胸は、見知らぬ異世界への期待と好奇心によって、激しく躍った。

 今、目の前に広がるこの景色をもっと楽しんでいたい。だが、そんな才人の気持ちとは裏腹に、ゆっくりと地面が近づいてくる。そうだ、忘れちゃいけない。急いで部屋へ戻らなきゃいけないんだ。才人はそれを残念に思いながらも、こんな凄い体験をさせてくれた親切な魔法使いに、心の中で感謝した。

「それ、着いたぞ。わしはここで失礼する。ではの」

 寮塔の前へ舞い降りた後、立ち尽くしている才人に声をかけた魔法使いは、再びふわりと浮き上がる。それを見て、才人は慌てた。いやいやいや、ボケッとしてる場合じゃない、コイツに言わなきゃいけないことがあるだろうと。

「あ、ありがとう、助かったよ! 俺、平賀才人っていうんだ。お前は?」

 満面の笑顔で礼を告げた才人に、恩人は何でもなさそうな顔で答えた。

「礼などいらぬ、これも何かの縁だ。わしの名は『太公望』呂望。この学院にいれば、そのうちまた会うこともあるだろう」

 そう言い残して、タイコーボーリョボーと名乗った少年は飛び去っていった。

 その背中を見送りながら、才人は思った。なんだよ、魔法使いって、ひとの話を全然聞かないようなヤツばっかりだと思ってたけど、中にはいいやつもいるじゃないか。しゃべり方は、なんだかうちのじいちゃんみたいだったけど――。

「って、感慨にふけってる場合じゃねえ!」

 慌てて塔の階段を駆け上がっていく才人。その後、思わぬ邂逅を果たした『伝説』たちが再会を果たすのは――本人たちが考えるよりも、ずっと早かった。


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